研究課題/領域番号 |
20510226
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
今井 昭夫 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 教授 (20203284)
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キーワード | 戦争の記憶 / オーラルヒストリー / ベトナム戦争 / ベトナム史 / ベトナム研究 / 地域研究 / 東南アジア研究 / ライフヒストリー |
研究概要 |
平成23年度は本科学研究費補助金により2回のベトナム現地での聞き取り調査を実施した。第1回目は平成23年8月にベトナム南部のタイニン省で実施した。ここはカンボジアと国境を接しているところで、ベトナム労働党南部中央局と南ベトナム解放民族戦線の本部が置かれており、ベトナム戦争の激戦地の一つだったところである。タイニン省の退役軍人会の斡旋で当地の退役軍人20人弱にインタビューを行なった。当地でのインタビュー内容の特徴は、カンボジアとの関わりが強いこと、カオダイ教との関係に配慮されていること、北部出身の退役軍人が意外と多かったことである。 第2回は平成23年12月にハノイ市郊外で実施した。ハノイ市の南の郊外に私立の博物館「戦争捕虜博物館」があるが、この博物館の斡旋で戦争捕虜だった人約15人にインタビューを行なった。戦争捕虜についての研究は、ベトナム戦争中の米軍による捕虜訊問調査はあるものの、ほとんどないといってよく、貴重な証言を集めることができた。多くは1973年の南北捕虜交換で釈放された人たちで収容所での苛酷な待遇や心境を語ってくれた。捕虜についての扱いがベトナム人民軍隊と旧日本軍ではだいぶ異なるという印象を抱いた。 論文の執筆としては、2本の論考をまとめた。1本は「ベトナム戦争中における南部赴任幹部についての考察-ベトナム第3国家文書館『B赴任幹部書類』検索リストを用いて-」で、ベトナム戦争中に北から南に投入された民間人の幹部約5万7千人の実態の一端を明らかにした。 もう1本は「敵が破壊しても、われわれは進む-ベトナム北部ターイグエン省退役軍人達の戦争の記憶-」は、ターイグエン省での聞き取り調査をまとめたもので、当地の退役軍人達の戦争の記憶の特徴を抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベトナム国内での聞き取り調査は年に2~4回と着実に実施してきており、順調に進展している。ただし南部での旧サイゴン軍兵士や少数民族への聞き取り調査がなかなか実施できていないのが問題である。また、聞き取り調査を論文にまとめるのが、年に2本か多くて3本で聞き取り調査の回数に追い付いていないのが実情であるが、研究自体はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きベトナム国内の聞き取り調査と聞き取り調査の成果を論文にまとめていく。聞き取り調査の場所としては、メコン・デルタ、中部高原、中国国境地方などを予定している。できれば、すべての軍区をカバーするようにしたい。また最大の課題は、南部において旧サイゴン軍兵士にインタビューすることであるが、正式なルートでこの聞き取り調査をすることは現状ではまだ厳しいと思われるので、たとえば日本在住の元難民でサイゴン軍兵士だった人に日本でインタビューするなどの工夫をする必要があるかも知れない。また、本調査について外国から内容の問い合わせなどもあり、データの整理をきちんとするためにも、ホームページを作成して、インタビューの音源とトランスクライブした原稿の保存などを図っていくことを検討したい。
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