平成22年度は、東北タイの3地域(ムクダハン県、ナコンパノム県、ナコンラーチャシーマ県)において聞き取り調査を実施するとともに、バンコクのタイ国立公文書館において、20世紀前半の農業に関する文献の収集・調査を行った。また日本国内では、衛星画像(ALOS-PALSAR)解析を行い対象地域の水田を土壌水分条件によって分類するとともに、これまでの村落調査の結果をGISデータとして整理し、新旧の地形図から抽出した土地利用変化との関連を分析する作業を行った。 聞き取り調査と公文書調査の結果、20世紀中ごろまで、雨期水稲作によるコメ生産は域内の需要を満たすに至っておらず、それを補うため、広い範囲で焼畑陸稲や減水期稲の栽培、漁労が行われていたことが示された。さらに、こうしたコメ需給のギャップは、農村人口一人当たりの水田面積が小さかったことによるものであり、多くの地域では1960年代以降の水田拡大により急速に解消するに至ったことが明らかになった。 衛星画像解析に関しては、雨期の始まりから中盤にかけての3時点の合成開口レーダ(SAR)画像を用いることにより、雨期の初期から深水になる窪地田(伝統的灌漑システムによる人為的洪水を含む)、前者よりわずかに高い場所にあり比較的乾燥している丘陵田、近代的灌漑システムによる灌漑田を分類できることが明らかになった。この分類結果に地形図から抽出した土地利用変化を重ねあわせた結果、県程度の領域(数千平方キロメートル)以上の広い範囲を単位として見た場合、水田の拡大過程と土地の土壌水分条件、灌漑の可否との間には必ずしも有意な関係がないことが示された。 上記研究結果は、現在東南アジアの各地の農村部で起こりつつある大規模な生業転換のメカニズムを解明する上で重要な手がかりを与えるとともに、近年地域研究の分野で試みられつつある地域情報学的手法を用いた研究の先行事例として、重要な意義を有するものである。
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