本研究の目的は、カザフスタン共和国・セミパラチンスク地区の核実験被災者に対する(1)アンケート調査、(2)証言調査(聞き取り調査を含む)及び(3)遺伝子レベルでの検討により、同被災地区における核被害の実態を総合的に解明することである。この目的のため、当該年は以下の調査研究を実施した。 1.2008年8月、セミパラチンスク核実験場近郊のOzerky、 Bukenchi、 Mukur、 Pryrechnoe、 Chekomanの5村でアンケート調査及び証言収集調査を実施した。研究分担者、現地研究協力者と協議の結果、従来の設問を踏襲し、アンケートに関しては、被災体験、現在の健康状態、被曝の経緯に関する設問を設けた。証言に関しては、核実験にまつわる体験、心残りなこと、現在の生活環境に対する要望等を自由に記述してもらった。118件のアンケート及び92件の証言を回収した。 2.現在、上記アンケート集計及び証言翻訳を継続中である。 3.2005年までに収集したアンケート・証言を用い、セミパラチンスク地区住民の精神的影響及び被曝線量との関係を検討した。その結果、次の可能性を示唆した。(1)「被曝した」という意識・認識が心的影響の要因である。(2)核実験による心的影響と住民の健康不良とは、相互に関連し合っている。 4.上記アンケート・証言を用い、地区住民の核実験体験及び体験と被曝線量・爆心地からの距離との相関を検討した。その結果、同地区住民の核実験体験の有無は、爆心地からの距離に左右されている可能性が極めて高いことを明らかにした。同時に、爆心地から半径170km-180km以内の住民は、閃光、爆風といった何らかの体験を有している可能性が高いが、200km以遠の住民では、その可能性は低いことを明らかにした。3. 4については、ジャーナル、学会、国際会議で発表した。
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