本研究の目的は、カザフスタン共和国・セミパラチンスク地区の核実験被災者に対する(1)アンケート調査、(2)証言調査(聞き取り調査を含む)及び(3)遺伝子レベルでの検討により、同被災地区における核被害の実態を総合的に解明することである。この目的のため、当該年は以下の調査研究を実施した。 1.2010年9月、セミパラチンスク市及びカルバラウ村住民を対象にアンケート調査及び証言収集調査を実施した。研究分担者・連携研究者、現地研究協力者と協議の結果、従来の設問を踏襲し、アンケートに関しては、被災体験、現在の健康状態、被曝の経緯に関する設問を設けた。証言に関しては、核実験にまつわる体験、心残りなこと、現在の生活環境に対する要望等を自由に記述してもらった。その結果、143件のアンケート及び88点の証言を回収した。 2.現在、上記アンケート集計及び証言翻訳を継続中である。 3.連携研究者である原田浩徳らが、セミパラチンスク地区在住骨髄異形成症候群(MDS)患者の遺伝子変異を解析し、AML1変異が被曝線量依存性に高頻度であることを明らかにした。 4.2005年4月実施の朝日新聞「被爆60年アンケート」の回答結果を用い、原爆被爆者の現在の思いについて検討した。その結果、原爆体験に対する認識は、自身が体験した原爆投下後の地獄のような原風景と肉親にまつわる体験という二つの部分から主に構成されていることがわかった。同時に、原爆被爆者のメッセージの核心的部分は、「核(兵器)廃絶」による「世界の平和」であることがわかった。また、それらに関して、性別、被爆地別、年齢階層別での異同についても検討した。これら研究成果は、新聞等のメディアでも頻繁に取り上げられた。
|