平成22年度は現地調査は行わず、主として文献調査およびデータ整理を行った。本研究計画では当初、エチオピア南部の行政文書の閲覧と分析を作業工程に組み込んでいたが、現地調査実施時間が限られていたこともあり実現できなかった。しかしながら、行政文書の収集と分析が急務であることには変わりなく、今後の課題としたい。 得られた結果は以下の通りである。第一に、エチオピア南部における政府の統治機能が予想以上に強化されていたことが挙げられる。1990年代以降、地方政府は民族紛争の調停に積極的に関与するようになり、また現地民による狩猟の禁止、民族内の殺人事件に警察が介入するなど、地方政府による現地民の「暴力の飼いならし」が本格化し、かつ推進されてきたといえる。 第二に、戦いの当事者間の文化的プロトコルの共有/非共有が紛争終結の質に影響を与えている可能性が示された。これはすでに先行研究でも指摘されていたことでもあるが、こうした文化的プロトコルの同質性/異質は、上で述べたような国家の影響力が大きくなるにつれて、その影響力を減じている可能性が高い。 第三に、大規模な牛略や戦いがなくなり時間が経過するにつれて、「敵」との間のバッファーゾーンが縮小する傾向が見られた。本研究が対象としたオモ系農牧民バンナにおいては、「敵」と認識されるムルシとの間に数十キロにわたるバッファーゾーンが維持されていたが、近年、バンナの集落がその範囲を西側に拡大させている。ここから居住域の西方への拡大には農地や牧草地の不足、干魃といった内的な要因と、平和の継続という外的要因がある可能性が示された。
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