本研究の目的は、「フォーマル・セクターの正規雇用を喪失したインドの失業者が、長期的な生活設計を構築するための方策」を検証し、政策提言を行うことである。今年度は「非合法に閉鎖した工場で雇用されていた労働者」への調査を実施し、現状の分析を行った。当該工場は1997年に非合法に閉鎖したが、労働者との雇用関係は2005年に合法的に閉鎖するまで継続していた。1999年および2002年に調査した労働者に対して、2008年8月および2008年12月〜2009年1月に第2回追跡調査を行った。工場は2005年に未払い賃金や退職関連金を支給したが、他の閉鎖工場と比較して支給額が低かったため、百余人の労働者が支給額を不服として集団訴訟している。大半の労働者は受給したが、借金の返済などに消え、貯蓄した世帯は少なかった。 失業後の労働者の大半は、インフォーマル・セクターで不安定就労をしている。また、就労・求職意欲を喪失した労働者も少なくないため、経済状況は世帯員の経済力に左右される。工場勤務時より経済状況が向上している世帯は、子弟が安定した職についている場合と、働き手が多い場合であった。後者は、インフォーマル・セクターでの就労であるが、複数の世帯員の就労により世帯全体の経済状況は比較的よい。しかし、失業や結婚で働き手が減少した場合、経済状況が即時悪化するような不安定さがある。したがって将来的な見通しがたたず、現状を維持することに主眼が置かれてしまう。 長期的に安定した生計を維持するためには、子弟を安定した職につけることが重要である。そのためには教育や職業訓練が必要であるが、労働者の失業により教育投資が極端に減少することが多い。全員で5年後、10年後の世帯の状況をシュミレーションし、そのために必要な方策(収入源の複数化、不本意であってもインフォーマル・セクターで就労することなど)を検討し、迅速に取り組むことが重要であろう。
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