「フォーマル・セクターの正規雇用を喪失したインドの失業者が、長期的な生活設計を構築するための方策」を検証するため、今年度は「非合法に閉鎖し、のちに合法的閉鎖の手続をとった工場で雇用されていた労働者」への調査を実施した。対象は2003~04年にインタビューした53名の労働者と世帯員で、2009年8月および2009年12月~2010年1月に追跡調査を行った。当該工場は2000年に非合法に閉鎖したが、法的雇用関係は2004年に破産手続きをとるまで継続していた。工場側は2004年に未払い金の一部を支給したが、退職・補償金などは未払いである。 こうした中で、労働者世帯は不安定な状況におかれてきたため、支給金は借金返済などに消えた。調査時点で就労していた労働者は全て、インフォーマル・セクターでの就労であった。また、就労・求職意欲を喪失した労働者も少なくないため、経済状況は世帯員の経済力に左右されている。子弟が比較的安定した職に就いているごく一部の世帯を除くと、複数の世帯員がインフォーマル・セクターで就労することにより、生計を維持しているケースが多い。結果として、子弟の教育や結婚に重大な支障が生じている。一方で、経済的な理由から宗教婚が出来ない場合、インドでは稀な恋愛結婚をするケースが複数存在した。宗教婚をするには世帯の経済状況が悪く相手を探せないため、親である労働者は恋愛結婚を許可せざるを得なかった。それが世帯内不和を生むこともあり、経済状況が子弟の将来と家族のあり方に大きな影響を与えていることが改めて明らかになった。
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