本研究は、2001年9月11日の米国同時テロ事件以降、著しく変容する海外からの送金パターンがパキスタン経済に与える影響を分析することを目的とする。特に米国からの送金受け取り世帯を主たる分析の対象とし、彼らの消費パターンが経済全体に与える影響を検討するものである。平成20年度は、本研究の初年度であり、文献収集、2次データの分析、海外の専門家やパキスタン関係省庁との意見交換等に重点を置き、在外パキスタン人からの送金額の推移と国・地域別の送金パターンに関するデータ整備及び米国からパキスタンへの送金が増加している要因分析等を行った。 2次データからは、明確に9.11テロ事件以降、在外パキスタン人労働者からの送金(公式ルート経由)が急増したこと、特に米国からのパキスタンへの労働者送金が増加し、サウジアラビアを抜き、最大の送金元となったことが明らかとなった。また更なる分析から、9.11テロ事件以降、米国からの送金が増加した背景には、送金受け取り側であるパキスタンのPULL要因と送り手側である米国のPUSH要因が重なりあったものであると結論した。PUSH要因としては、インフォーマルな送金への規制、米国に資産を持ち続けることへの不安、そしてPULL要因としてはパキスタン経済の成長などが上げられる。これまで米国からの送金増加に関してその要因を検討した研究は皆無であり、その意味において本研究の分析は意義のあるものと言える。また平成21年度に予定する米国からの送金受け取り家計の調査に関して、パキスタンの研究者らと議論を行った。具体的には調査地選定、サンプリング、質問票の内容についてである。 これらの研究成果もしくは途中経過は、海外の2つ学会において発表し、海外の専門家との意見交換や交流を行うことができた。これらは今後の研究において有意義なインプットとなるであろう。
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