本研究は、2001年9月11日の米国同時テロ事件以降、著しく変容する海外からの送金パターンがパキスタン経済に与える影響を分析することを目的とする。これまでに入手した二次データおよび家計レベルでの定量的な調査データより、米国からの送金の使用に関して以下の点が明らかとなった。その前にまずパキスタンから米国への移民者は二つの大まかなグループに分類することができる。一つは、1960、70年代の移民グループであり(米国社会に根付いており、米国におけるパキスタン社会を代表する層とも言える)、もう一つは1990年以降の移民規制の緩和後に移民したグループである。前者は比較的生活水準の高い家計からの移民であり、一方後者はその限りではない。よって送金目的もこの二つの主体によって異なる。大胆に二分した場合、前者のパキスタンへの送金は経済的機会の追求を目的としており、後者の送金はパキスタンに残した家族や親族の生活水準向上を目的としている(中東石油産出国への出稼ぎ労働者に類似した送金行動)。この結果、9.11テロ事件以降に顕著となった大都市圏での不動産購入や自動車などの奢侈財購入、株式市場での投資は前者移民者グループの送金によるものであると見られる。これに対し、ある既存研究では、後者の送金が米国からの送金全体の60%程度を占めると指摘している。また他の既存研究は寄付目的の送金も少なからずあり、2003年度ではおおよそ8000万ドルと推計されている。このように米国からパキスタンへの送金は、中東石油産出国からの送金と比べると大きくその使用に関して差異が見られる。この研究から浮かび上がる懸念としては、米国からの送金の持続性である。もし送金の多くが経済的利潤の追求であれば、それはパキスタンの景気変動に大きく左右され、パキスタン経済と米国からの送金はpro-cycleである可能性がある。
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