本研究の目的は、女性教師によって担われてきた家庭科に、1994年の高等学校家庭科男女必履修を契機に参入してきた男性教師に焦点をあて、高等学校家庭科教師を目指したフロントランナーの男性教師らが立ち上げたネットワークの変遷を追跡し、教員養成や家庭科教育に内包するジェンダー構造とその課題を検討することにある。本年度は、(1)学校現場及び学校外の現職教員の学習の場を、企業経営の組織論における「学習する組織」を手がかりに理論的検討を進めるともに、1990年代に旗揚げした「家庭科教員をめざす男の会」の10年間の活動を調査し、その一部を論文化した。フロントランナーに続いて家庭科教員を目指す男性教員にとって、「家庭科教員をめざす男の会」で学習し共有したレパートリーやメンバーの存在が、心理的バリアーを乗り越えるリソースとなっていることが明らかになり、教員養成制度の隙間に生じた実践コミュニティは、エンパワーメントの装置として機能していることが示唆された。(2)男性家庭科教員の配置状況を調査し、男性教師の参入を阻む課題を、制度的・歴史的文脈において検討する必要性が見いだされた。
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