研究概要 |
大正期に刊行された女性雑誌『婦人公論』と『主婦之友』を資料として,1916〜30年の約15年間の避妊に関する記事を用い、避妊をめぐる言説の構成と内容を通して夫婦関係や家族に付与された意味を考察した。 研究結果は以下の二点に集約される。第一に、1920年代は、一方において男性における性欲のコントールが、他方において産児制限(産児調節)が同時に社会問題化したという点において特異な時代であった点である。両者は、夫婦間の性における「快楽と生殖の分離」を前提とした上で、避妊という共通の達成課題をもっていた。避妊の必要性は、従来、女性側の心理的・身体的要因や子どもに対する教育の観点から解釈されてきたが、夫婦関係の性愛化という概念の成立が、男性の避妊への積極的関与を誘発したことを新たに指摘した。 第二に、避妊は、夫婦関係の質を規定する要因として今日以上に大きな位置を与えられていた。新中間層の人々の中には、女性雑誌というメディアを通して、「幸福な夫婦・家族のイメージ」を形成する情報を入手していたが、同時に、避妊に関する情報やその具体的方法の入手とその実行というプロセスを通して,親密な夫婦関係を形成していた。避妊は「近代家」族理念の形成と普及を促進する一つの重要な要因として機能したことを指摘している。 本年度の研究の成果は、第18回日本家族社会学会大会において発表したほか(次頁参照)、「日本近代における避妊の受容と家族の情緒化-1920年代を中心とした女性雑誌の言説分分析」という論文にまとめ、日本社会学会の機関誌『社会学評論』に投稿した(審査中)。
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