研究概要 |
平成20年度は,DV被害者支援専門職員の教育システム開発に向けた基礎資料を得るために,母子生活支援施設に入所している元DV被害者(以下被害者)2名と施設職員5名に半構造化面接調査を実施した。被害者に対しては,被害者自身がとった対処行動と実際に受けた医療・福祉支援について質問した。その結果,被害者やその子どもは加害者から激しい暴力を受けており,子どもを守るために加害者の元を離れ,自ら公的機関に支援を求めていた。DVによる外傷を治療するために受診した医療機関では,職員が公的機関に通報したり他の専門職員に紹介する等の対応はとられなかったという。医療・福祉職員の被害者対応が不統一なことに,被害者は大きな不満を感じていた。被害者の子どもは,加害者の元に戻ることに反対したり,被害者を精神的に支えるなど,DVのサイクルを断つ上でキーパーソンになっていると考えられた。母子生活支援施設職員に対しては,職員に必要なDV教育について質問した。回答を質的に分析した結果,次の3点が明らかとなった。1.母子生活支援施設職員のスキルは,個人の社会経験の上に研修や先輩の指導等が重なることで構築されていた。2.心理学やファミリーソーシャルワーク,アサーショントレーニング等の対人援助に関連する研修プログラムを職員は希望していた。3.受講者数の制限や不規則な勤務体系などのため,職員の研修受講回数は年平均2〜3回と少なかった。 本年度の調査では,DV被害者自身のエンパワーメントを図るには,DV被害者支援専門職員に対する支援教育プログラムの充実と,研修環境の整備が不可欠なことが改めて示された。平成21年度は,全国の医療・福祉機関およびその職員から得たデータを分析し,具体的な教育プログラムの開発に取り組む。
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