本研究は、ネパールを事例に、紛争を既存のジェンダー構造を転換し、女性の政治参画を生み出す転換点として捉え、これまで政治と遠い世界に生きてきた女性たちを政治運動に駆り立てた要因を探るものである。 平成22年度は本研究の最終年度であり、これまでに収集してきたデータをもとに分析を行った上で、不足部分の補充調査をすると共に、研究成果のとりまとめに努めた。 研究代表者・相内は、発展途上国の人権問題やジェンダーに関わる課題について、先進国政府の支援体制を調査するため、米国国務省において聴取り調査と資料収集を行なった。米国の対外政策上のネパールの地位は、概ね政治的安定に近づきつつあるという評価にあり、ジェンダー的課題に対する支援については、内政干渉とされる批判を懸念し、若い女性に対する教育機会の拡大というニュートラルな政策に留まっている。ネパール女性の政治的経験とその学習プロセスは、クォータ制によって得られる利を活用しつつ、自助的努力の中で継承されていくことになろう。 ネパール調査担当・幅崎は、平成21年度に聴取りを実施した制憲議会の女性議員たちへ、補充調査を行った。その上で、これまでに収集したデータを分析した。その結果、女性議員の場合、小選挙区制直接選挙での当選率は低く、困難な選挙を強いられていたことがわかった。女性議員の多くが比例代表制によって選出されており、クォータ制を取り入れているがゆえに議員として登用されていた。女性の国会議員が増加しているものの、政党内部で中心的な位置を占めているのは依然として男性であり、国会議員としての影響力を持つ女性は少ないことがわかった。 本研究による成果は、平成22年8月~9月に米国ワシントンで開かれた米国政治学会、及びJapanese/American Women's Symposium at the American Political Science Association 2010において口頭発表を行い、多くのジェンダー研究者や政治学者からのコメントを得た。また、その成果は、北翔大学人間福祉学部の紀要に論文として発表した。平成23年度も引き続き、国際ジェンダー学会、現代インド南アジアセミナー等で発表する予定である。
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