本研究の目的は、ジェンダー論のシティズンシップ論への適用可能性とその限界を探ることを全体的な構想とする。方法としては、(1)シティズンシップ論研究、(2)親密圏におけるジェンダーをめぐる権利の実現過程の研究に大別でできる。2010年度は、本科研研究の報告書として、『ジェンダーとシティズンシップをめぐる法・権利・支援-親密圏を中心に-』(全190頁、論文7本ほか所収)を発表したうえで、昨年度に引き続き法社会学会学術大会において報告を行った。(ミニシンポジウム「親密圏への法的介入-DVから考える」、手嶋昭子「家族法における離婚婚姻観-DVによる離婚事例から、毛利康俊「親密圏への法的介入-ルーマン派システム論からDV法を見る」)また(1)と(2)についての検討を研究会等で続け、とくに親密圏におけるジェンダーに関わる権利の在り方の困難さ及び権利を実施する困難さに鑑み、権利実現のためには、法の変革だけでなく親密圏に関わる人々だけに限られないコミュニティも含めたなかでの重層的な支援の必要性が不可欠であり、従来権利の外側のものとされてきたこのような支援のための制度に、権利そのものと等価ともいえる意義と重要性があることを明らかにした。そのうえで、シティズンシップやマイノリティをめぐる歴史がこのような制度化をどのように位置付けつつ議論展開を行ってきたか、権利実現のための支援の制度化と教育の歴史を検討している。
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