本研究は、従来のジェンダー史を展開させ、セクシュアリティ的観点を導入した歴史像=クィア・ヒストリーの構築を目指すものである。最終年度にあたる平成22年度は、基本的資料の収集・整理、国内アドヴァイザーとの交流、適宜発信を進めると同時に、総合的なまとめの作業を開始させた。資料収集・整理については、これまで収集してきたクィアおよびセクシュアリティに関する文献の翻訳作業を進めてきた。国内アドバイザーとの交流については、ジェンダーという横断的学際領域であるため、歴史学だけではなく、社会学、人類学などの隣接学問の専門家との交流を進めるために、こうした分野での一線におられる研究者との交流を深めた。特に、シンポジウム「占領期・ポスト占領期の視聴覚メディアと受容」(2011年3月5日・東京大学)において、米陸軍・国務省作成のプロパガンダ映画「戦争花嫁」の日本での上映を通じて、「アメリカ」を模範とする家庭のあり方(=女性のあり方)が喧伝され、日本社会のなかで「アメリカ」が受容されていくツールとなったという知見を得た。アメリカに引きつけた業績としては、1970年代にサンフランシスコ市議会議員となったハーヴェイ・ミルク氏を題材とした「1970年代のアメリカのジェンダー状況」と題する講演(2010年12月20日・明治大学)を行った。2011年1月に刊行された『権力と身体』(明石書店)では「同性愛の歴史的機能」を執筆し、「同性愛」「同性愛者」が問題なのではなく、それを作り上げていく社会や政治を解明することの必要性を強調した。
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