本研究では、イギリスにおいて高等教育修了後に大学に教育研究職を得たり、学問界で顕著な業績を残す女性が出現した歴史的過程を実証的に把握することによって、女性の研究職進出に対する大学の対応とその背後にあるジェンダー観、学問観を検討すると同時に、女性研究者を育てる環境要因や阻害要因を考察したいと考えた。イギリス教育史において、大学が女性を学生として受け入れる過程については多くの先行研究が存在するが、教育研究者としての受け入れに関する研究はあまりなされていない。 そこで、本年度は、数少ない先行研究を手掛かりに、1880年代から第一次世界大戦前後までの女性研究者の量的な増加傾向を把握し、専攻分野、社会的出自等の分布状況を検討した。また、ケンブリッジ大学のガートン・カレッジを事例にとりあげ、その卒業生名簿を分析することによって、初期の女性研究者の属性やキャリア・パスの類型化を試みた。その結果、19世紀末に至るまで女性研究者の所属機関はオックスブリッジやロンドンの女性カレッジに限定されており、共学大学への進出は20世紀初頭以降に様々な障壁に阻まれ緩やかなペースで進捗したことが明らかとなった。多くの男性教授たちにとって、女性を学生として受け入れることと、同僚としてまた男子学生に対する教師として受け入れることとは、全く次元の異なる問題として意識されたのである。 また女性研究者の専攻分野は伝統的学問領域よりも新興の領域に多く、職位や雇用形態においても非常勤の不安定なポストに集中していた。これらの点を含めた初期の女性研究者の属性や特徴についての検討を、次年度の課題としたい。
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