1) イン・ドネシア・東カリマンタン州・ブルンガン県の狩猟採集民の村で、狩猟採集民の社会の変化に関する調査を行った。この村は、政府が農耕民から買い上げて用意したもので1972年に開村した。沿岸部に近く森林伐採や鉱山開発が進んでいる地域にある。村は農耕民の村々と徒歩数分の距離で隣接している。現在では、焼畑農耕を行うばかりでなく、建築、料理、踊りやその衣装など様々な点でその農耕民の様式を取り入れている。農耕民など他民族と結婚した人や、イスラムに入信した人も多い。急速に農耕民やイスラムと文化的に同化しつつあるのではないかと考えられる。 2) インドネシア・東カリマンタン州・マリナウ県で、狩猟採集民と農耕民の内陸部の集落において、森林に関する知識や民族間の関係について調査を行った。この調査地の狩猟採集民は、多くの人が近隣の農耕民の数民族の言葉を話すことができる。民話や植物利用を含めて様々な情報を農耕民から得ていた。年配の人たちによると農耕民起源だという民話を、自民族の民話と勘違いしている人たちもいた。近隣の農耕民とは多くの点で異なった文化を維持しているが、少しずつ農耕民の文化が流入しているのではないかと考えられる。文献から過去においても農耕民との交易関係があったことが分かっており、このような過程は古くから続いてきた可能性がある。 一方、農耕民で狩猟採集民の言葉を理解できる人はごく少数である。ボートで数十分の距離という近隣に暮らす狩猟採集民の文化につてよく知らないことが多い。農耕民への狩猟採集民の文化の流入は、かなり限られてきたのではないだろうか。今後、生物に関する民俗知識の比較の分析を進めていく。 3) 前年度、マレーシア・サラワク州で、狩猟採集民の植物利用等の調査を行った際に採集した植物標本をクチンの標本庫において同定した。今後、インドネシアの狩猟採集民のデータと比較を行う。
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