本研究は、ボルネオ島中央部における生態資源の利用とそれを支える民俗知識の動態を明らかにすることを目的としている。主に、狩猟採集民の西プナンと東プナン、農耕民のクニャの集団を調査対象とする。本年度は、これまでの調査で採集した植物標本の同定にとくに重点をおいた。 また、サラワクのTinjar川中流においてセボップを対象とした村落調査を行った。セボップはクニャ系の農耕民グループのひとつとして知られるが、言語的には他の多くのクニャ系のグループと異なり、狩猟採集民のプナンとの類似性が指摘されている。セボップ語について基礎的な語彙の収集すら先行研究では十分に行われていなかったため、本調査ではまず語彙の収集を行った。本研究が対象としている他民族と同様に生物にたいする知識の聞き取りも予定していたが、調査集落の周辺は木材伐採によってよい森林が消失しており、限られたデータしか収集できなかった。 ただし、今後の住民の動きを考える上で示唆に富む状況が観察できた。村の周辺では、企業による木材伐採が進み森林の劣化がおこった。木材伐採についてどのような意見をもっているにせよ、伐採キャンプで働き、現金収入を得て、さまざまな財産を手に入れてきた村人も多い。サラワクでは現在、オイルパームなどのプランテーション開発が盛んになっている。調査村では、今までの企業による木材伐採への対応とは違い、どうせ開発されるなら自分たちでプランテーションを開発しようとしていた。基本的には世帯単位でプランテーションの造成を行っているが、補助金の申請は村でまとめて行うなど村としての動きともとれる。さらに、伐採キャンプでの労働から得られた資金を使って購入したシャベルカーなども造成に利用されていた。土地自体が企業に押さえられるプランテーション開発にたいしては、住民の反発はかなり強くなる可能性がある。
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