研究概要 |
本年度は,フランスに見られる相互作用主義的な知覚論について,「知覚行為」という観点から,考察することを試みた。具体的には,近年フランスで行なわれている脳科学・生理学者(A.ベルトス)と現象学者(J.L.プティ)との共同研究において,知覚と行為との関係がどのように理解されているかを精査分祈した。 具体的に行なったのは,第一に,ベルトスが生理学的な観点から展開し,プティが現象学的な観点から主張している知覚論の内容を分析することである。ベルトスは,『脳の運動感覚』において,脳科学の知見を踏まえて,J.J.ギブソンの「アフォーダンス」概念のような「知覚がもつ多感覚的で行為関連的な性質」の前提となる神経機構の解明を試みているからである。第二に,プティとの共同研究『行為の生理学と現象学』において,フッサールの「キネステーゼ」概念を軸に展開している,独自の知覚行為論をめぐって,旧来の「運動感覚」概念の新たな解釈を吟味し,その主張の特徴を浮き彫りにするすることを行なった。 以上のような研究を進めるうちに,現代フランスの知覚研究の基礎を与えたと言えるM.メルロ=ポンティの知覚哲学を,彼が批判的分析の対象としたゲシュタルト心理学との関係において,もう一度比較検討することが必要であると思われたが,これは最終年度の課題として持ち越された。
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