研究概要 |
研究の最終年度に当たる本年度は,現象学と生態心理学,認知科学と生態心理学との比較検討を行ない,「知覚行為」という観点から,相互作用主義的な知覚論の可能性を考察した。 具体的には,第一に,昨年度に続き,メルロ=ポンティとギブソンが,ゲシュタルト心理学からどのような影響を受けたかを比較することを通して,その異同を明らかにすることを試みた。第二に,メルロ=ポンティが20世紀前半の心理学との対決を通じて,知覚にかんする自らの哲学的な立場を定めていったように,近年の脳神経科学の研究成果を取り入れた認知科学的な知覚観を視野に入れつつ,現象学や生態心理学の立場を越えて,「行為としての知覚」という発想をどのように深めていくことができるかを検討する。以上を踏まえて、発表したのは,以下のような内容をもつ論考である。 「生態系・巣・住塞い-生物学-人間学的な観点から-」では,生態系のうちで動物が棲まうことの意味について,生物学-人間学的な観点から検討することを試みた。そのために,(1)環境に適応するための手段として動物が巣作りをすることにはいかなる意味があるのか,(2)動物が実際に構築するさまざまな巣のあり方はどのようなものか,(3)そうした動物の中で人間が<巣=住まい>をもつことの特徴はどのような点にあるのか,についてR.ドーキンスによる「延長された表現型(extended phenotype)」という概念を踏まえて分析した。
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