本年度(最終年度)の研究は、連関意味成立の基盤となっている時間概念の変更という事態によって、ここまでの研究で明確になったジレンマを切り抜ける方途を探る、という部分が中心であった。そのジレンマとは、およそ次のようなものである。個人の死という限界を超え、社会の歴史の中で個人の人生全体を位置づけることによってその意味を確保しようとする方策は、一定の条件のもとでしか成功しないが、そうした条件を満たす歴史観はきわめて限られており、これまでの検討では伝統的なキリスト教的救済史観やインド的輪廻思想がその候補として考えられた。しかし、こうした歴史観は、信仰という次元でなら存続することは可能だと思われるが、自然科学的な世界観の影響もあって今日では危機に瀕しており、人は人生の意味を見失うニヒリズムの危機にあるように見える。すなわち、現代人はいわば信仰へと身を投げ出すか、それともニヒリズムを生きるかという二者択一を迫られており、後者は人生を悲観的に送る苦痛を伴うが、前者は多くの現代人にとってただちに参入できるようなものではない。 このようなジレンマに対して本研究では、方法的ニヒリズムによっていったんは伝統的な解決を放棄し、別の方途、すなわち、連関意味の基盤となっている時間概念を根本的に変更することによって第三の道を切り開くという方途が目指された。このような最終部を含む本研究の全体は、年度末までに著作『時と意味-人生の意味の哲学探究』(四百字原稿にして600枚弱)にまとめられた。当初の計画では、22年度途中までに原稿を完成し、印刷製本して諸方面に配布する予定であったが、著作の完成に予想以上に時間を要したため印刷は断念され、そのために計上してあった印刷費は参考図書等の購入に充てられた。なお、研究成果の一部は下記図書(共著)に反映されている。なお、完成した原稿は、科学研究費受託の社会的責任を果たせるよう、現在、出版を営為計画中である。
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