研究概要 |
前年度に遂行した原典資料の読解作業と写本系統図の再検討および関連諸論文の論点整理を踏まえ,ニコマコス『数論入門』の訳出を練り上げていくと共に,引き続き注釈作業に集中した. 1.ニコマコス『数論入門』の各論は,プラトン『国家』第八巻に登場する「生成を規定する数に関する教説」,あるいは『ティマイオス』や『エピノミス』等に登場する宇宙万有の秩序構造を支える比例論を反映するが,プラトン諸対話篇に散見されるピュタゴラス学派由来の数学的世界像・宇宙万有の秩序構造が如何なる経路を辿って一世紀のニコマコスに継承されていったのか,両者を繋ぐ系譜をストア学派はもとより,テュアナのアポロニオス,プルタルコス,スミュルナのテオンなどを手がかりに調査し,文献学的論拠と共に詳述した. 2.ニコマコス『数論入門』における比例論をエウクレイデス『幾何学原論』のそれと比較検討し,ニコマコスとエウクレイデス両者の共通点および相違点を分析した.エウクレイデスからニコマコスに至る約四百年の間に,エウクレイデスの枠組が如何に継承され変容したのか,その個別的局面の要因を具体的に抽出した. 3.訳出および注釈に際して,ニコマコス『数論入門』のラテン語訳とその解説書として位置づけられるボエティウス『数論教程』を詳しく再検討した.
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