本研究では、在宅ホスピスを始めとする終末期医療の現場との緊密な連携関係に基づいて、終末期疾患を抱える病者の「生ける死生観」が広く掘り起こされ、その倫理学的な概念化、基礎づけが試みられる。それによって、今日の日本社会に生きる同時代人に対して、各人が自らの「生と死」に向きあう手がかりが示され、またそれとともに、人間の死生をめぐる哲学的・倫理学研究の新たな一歩が刻まれるならば、本研究の目的は果たされたことになる。 この研究目的をはたすため、本年度の研究は、以下の1)~3)の課題に取り組んだ。 1)在宅緩和医療従事者との緊密な連携のもと、在宅緩和医療の患者・家族を対象としたインタビュー調査をより本格的に展開し、死生観にかかわる患者・家族の語りをさらに広く収集した。また定例の研究会で、インタビューの成果を発表し、チーム全体で共有した。2)思想史研究では、東北大学臨床死生学研究会シンポジウム「人文学と現場の協業による臨床死生学の創生に向けて」を主催し、2つの講演と3つの研究発表を行った。それを通して、ターミナルケアの現場に対して文化研究からいかなるフィードバックが可能であるのか、あるいは臨床の現場がいかなる文化研究を要求しているのかという問題意識から、現実社会との対話に開かれた研究のあり方を検討することができた。3)また、日本思想史学会におけるパネルセッションを組織し、当該分野における臨床死生学の可能性と、学的関心喚起に努め、反響を得ることができた。
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