「倫理性」概念の考察という基本的研究枠組のもとで、本年度は主として「自由意志」「道徳心理」を(サブ)テーマとして、それらについて中心的に考察を進めた。 1.「倫理性」のいわば可能性の基底的条件ともみなせる「自由意志」をテーマとして、主として既存のいわゆる「両立論」を批判しつつ、端的な「リバータリアニズムvs.硬い決定論」という対立軸に定位しつつ、前者の立場で、行為の「非決定性」および「理由性」という相互に両立しがたいファクターをなんとか両立させうるものとして、申請者のオリジナルな主張として意志の自由性の在り方を提示した。(記載項目「雑誌論文」の第1、第4論文) 2.「倫理性」を(行為への)「動機性」という観点から問題として、a.近年、流行ともなりつつある「科学的心理学」への着目の傾向(「脳神経倫理学」等)に対して、(固有の学としての)倫理学の立場から留意すべき点を指摘しつつ、b.「内在主義vs.外在主義」という伝統的な倫理学的論点ともリンクさせるかたちで、採り上げるべき諸論点を提起した。「共感」あるいは「愛」という動機性と、義務意識あるいは価値意識による動機性との二つの基本的在り方を区別しつつ、特に後者について、個別的には「道徳的偏執(fetishism)」論とも関連させつつ、具体的にはカント的倫理性の在り方等の検討が必要であることを説いた。(同上、第2、第3論文)
|