研究概要 |
本研究の目的は、トマス・アクィナスの哲学思想の立脚点から、西欧中世思想におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーション(文化内開花)のあり方を解明し、そこからさらに非ヨーロッパ世界における哲学のインカルチレーションの可能性を問うことにある。 それ自体として普遍的なものが、歴史的現実において特殊の相のもとに多様な仕方で存在するという点で、「キリスト教=西洋の宗教」や「哲学=西洋哲学」という等式について類似した吟味を加えうると考えられるところから、哲学やキリスト教はいかなる意味で文化の一部に含まれ、また含まれないかということを様々に問い直すことができる。こういう見通しをえた上で、研究実施計画にあげた二つの課題について成果を得ることにつとめた。 すなわち、(1)いわゆる十二世紀ルネサンスの時代から十三世紀にかけて西欧思想界において、イスラム文化との交渉を伴う仕方で、リスト教神学がどのようにしてアリストテレス思想との対決/受容を迫られたかという点からの考察について、「中世キリスト教思想にみる伝統と刷新-トマス・アクィナス『神学大全』の場合-」と題して『中世ヨーロッパにおける伝統と刷新』(渓水社刊,2009)に収録することができた。 また、(2)十六世紀以降における非西欧世界での、哲学の受容のあり方およびキリスト教思想の受けとめられ方について、国学者による漢学の受容の仕方に対比させて考察する手掛かりを得るべく、本居宣長の場合をとりあげ、「「水草の上の物語」に見る寓意-本居宣長による漢意批判の二面性-」(『比較日本文化学研究』vol. 3, 2010)を研究誌に掲載した。 以上のとおり、今日の多文化社会において異文化受容という重要な課題を果たすために、哲学の果たしうる役割を模索する上で、また引き続き研究計画を遂行する上で、示唆に富んだ有意義な成果をあげることができた。
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