研究課題
本年度は生命倫理における関係性についての最終的な考察を行ない、生命の哲学への将来の展望を考察した。まず、臓器移植法改正において最大の問題のひとつとなった長期脳死の子どもについて、その存在論的地位をどのようにとらえればよいかを哲学的に考察し、「まるごと成長しまるごと死んでいく自然の権利」という概念を提出した。長期脳死の状態で成長する子どもにそのような自然権を付与することによって、生の周縁部分に位置する存在を保護する理論的可能性が開けたと考えている。と同時に、脳死になった子どもと親のあいだで生成するナラティヴの分析を通じて、ナラティヴな責任という概念を提唱した。ナラティヴな次元における責任は、倫理的次元における責任とは別の重要性を持つのであり、その点を考慮に入れた生命倫理学が望まれることを指摘した。次いで、内在的存在論の視点から生命を捉えるときに、「生まれてきてほんとうによかった」という誕生肯定が倫理学の基礎概念となる可能性のあることを指摘し、この誕生肯定の概念について幅広く考察した。そして誕生肯定の概念を、今後の「生命の哲判のひとつの柱として据えることを現時点で考えている。以上のように研究の最終年度において、生命倫理学の関係性について新しいオリジナルな哲学的分析を行なうことができたと自己評価する。生命倫理学の欲望の側面については、まだ不十分な成果しかあげることができなかったので、引き続き行なわれる予定の「生命の哲学」研究において再度徹底的に考察したいと考えている。本研究のもうひとつの成果として、本学現代生命哲学研究所から英文ジャーナルJournal of Philosophy of Lifeを発刊することができた。3月時点で3本の海外からの投稿論文が掲載されている。申請者自身の研究成果もこのジャーナルにて成果発表する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件)
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