現代の生命科学や医療の現場が直面する多様な倫理的・政治的問題を「生命そのもの」の根源的なあり方が問われる場に立ち返って考え直すことを目的として以下の研究を進め、成果をまとめるための準備を整えた。 (1) 擬アリストテレス『問題集』第1巻に収められた発汗論を中心とする医学論文を厳密に分析する作業を通じてヒポクラテス学派とペリパトス派の哲学的生命論を再検討し、その影響関係を探った。その成果は「アリストテレス全集」(岩波書店)の一部として公刊される予定である。 (2) プラトン対話篇『国家』『法律』の分析を通じて、彼の生命論、医学思想が提起する倫理的・政治的問題を考察し、その現代的意義をさらに考究した。 (3) V.v.ヴァイツゼッカー研究会を主宰し、自伝的著作『自然と精神』および『出会いと決断』、前者の翻訳出版の準備を継続して行った。 (4) ヴァイツゼッカーの『「安楽死」と人体実験』の分析を行い、 (5) ベルリンのヴァイツゼッカー学会に出席し、彼の「生活史的方法」について理解を深めた。 (6) ニーチェの哲学的生命論とギリシア哲学との関係をあらたに問い直し、『西洋哲学史』(共著者の事情で現在のところ未刊)の一章として「ニーチェとギリシア1を著した(入稿済み)。 (7) 古代の医学思想、V.v.ヴァイツゼッカーの医学的人間学、および医学史、生命倫理全般に関わる広範な文献を収集し、批判的に分析するとともに、ひきつづき生命の哲学の基本構図を探った。 以上の研究の成果は、23年度にギリシャ哲学セミナー(東京)、日独文化研究所(京都)主催のシンポジウムで公開する予定である。
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