カヴァイエスは、「概念の哲学」を導入しつつ、カントにおける感性と悟性の二元論を批判した。そこで、私は、カントが感性と悟性の媒介として図式、そして生産的構想力と者えたことを踏まえつつ、これを概念の哲学における概念生成の場として考えた。カヴァイエスの哲学を引き継ぐグランジェは、数学的概念の構成を、カントのようにアプリオリな総合として理解するが、それを歴史に依存したものとしてとらえる。カントにおいては、算術や幾何学の概念が構想力によって明示的(ostensive)に構成されるのに対し、代数学的概念はシンボリックに構成される。そして、明示的に構成された算術的、また幾何学的概念が、直観のアプリオリな形式において対象としての実在性を帯びつつ現象に適合されるのである。本年度、現代数学の一つである非可換幾何學の構成を例にとって、カント哲学における図式を再考察した。コンヌによる非可換幾何学は、代数に位相という解析的概念をいれた作用素代数を幾何学化したものである。代数学と解析学のシンボリックな構成とその間の干渉を媒介にして、非可換な幾何学的空間が明示的に構成される。作用素において機々だ収束の強さをもつ位相を考えることで、作用素代数は、無限や濃度といった概念とつたがり、カントール的な集合論における無限の濃度の概念を拡張した。これは、作用素代数の解析的性格に由来するものである。もう一方で、作用素代数の代数的性格を見るならば、可換な代数幾何学がホモロジー代数や圏論と深く関わっているように、そこには代数と位相幾何学に同型性を与えるk理論を考えることができる。このようにして、非可換な位相空間や可微分多様体といった視覚化不可能な幾何学的空間を代数的・解析的作用素の背後に措定していくのである。以上のようにして、カントの図式におけるシンボリックな構成と明示的な構成を、現代数学の文脈の中で再考察した。
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