研究概要 |
研究の全体構想は、古代プラトン主義の哲学文献が、ギリシア語・アラビア語・ラテン語と言語媒体を変え、時代も移り、著者・翻案者の宗教(異教・イスラーム・中世ユダヤ教)も異なるに応じて、いかなる変貌を遂げるかを追跡することにより、ギリシア・イスラーム・ユダヤ縦断の精神史を描くことが最終的な狙いである。古代末期ギリシア哲学(プロティノス、ポルフュリオス、イアンブリコス、プロクロス、ダマスキオス)とその影響を受けたイスラーム哲学(キンディー、ファーラービー、イブン・スィーナー、イブン・ルシュド、ガザーリー、イブン・アラビー、モッラー・サドラー)、さらにユダヤ哲学(イブン・ガビロール、マイモニデス)を比較し、新プラトン主義哲学の変容、変遷を明らかにしたい。以上の研究構想の中で、本研究は、ギリシア古代末期とイスラーム哲学における神秘主義のエロース的形態の分析、比較に重点を置くものである。 平成20年度は、代表者の堀江聡は、主にプロティノス(205-270年)の第50論攷(III,5)「愛について」、第38論攷(VI,7)「いかにしてイデアの多が存立したか、及び善について」、第9論攷(VI,9)「善なるもの、一なるもの」の3論攷の構成、特定関連箇所の分析を行った。原典はOCTを用い、フランスのCerfから続々と刊行されつつある注釈書をなるべく多く目を通し消化した。イアンブリコスの『エジプト人の密儀について』も分析済みである。分担者の青柳かおるは、ガザーリーの代表作『宗教諸学の再興』とイブン・アラビーの代表作『メッカ啓示』の結婚と愛に関する章を和訳した。そして、お互いの翻訳をチェックするための研究会を開催した。以上の成果については、学会発表等を行うとともに、翻訳および論文にまとめた。
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