本年度の「研究実施計画」は「意志概念から個々の中心概念の意味連関を重点的に分析すること」にあった。 1)まず、意志概念をショーペンハウアー哲学に即して分析した。これは18世紀から19世紀の意志概念の変遷を明らかにするためでもあった。その成果として、彼の意志概念は、道徳的行為の原動力とされる伝統的な自由意志とともに、生理学的な作用をも包摂していることが明らかになり、これによって、ディルタイの意志概念は前者よりもむしろ後者の作用概念の系譜を引継いでいること、従ってディルタイ哲学の基本概念の意味連関についても、彼の「意志インパルス」という概念に見られるように、生理学的な作用概念から解明すべきであることが、重要な成果として明瞭になった。 2)以上の成果に基づいて、本研究は、斉一性、構造、構造連関、というディルタイ哲学の基礎概念の解明に向かった。従来のディルタイ研究では、構造も構造連関も斉一性も、ともに人間の本質的普遍的なものとして理解され、またこの理解を前提にしてディルタイ批判がなされていた。しかし本研究では新資料の初期草稿にまで遡って検討した結果、これまで研究されていなかったJ.S.ミルとの関係からみて、必ずしもそうではないことが明瞭になった。これは、従来のディルタイ理解を覆す、重要な成果として挙げられる。すなわち、ディルタイにとって斉一性概念は、J.S.ミルの類比推論による普遍化に対する批判的展開の中で意味形成され、人間本性の普遍的なものではなく、むしろ経験的に形成されるものとして考えられていたのである。これによって、ディルタイ哲学を「現実と経験の哲学」として再構成するという本研究の道筋が確証され、次年度(最終年度)の研究の準備が整った。 以上の二つの成果は、それぞれ、本報告書「11.研究発表」に記載の通り、雑誌論文・研究発表として公表した。
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