研究課題
本年度は本研究最終年度としてディルタイ哲学を「現実と経験の哲学」として再構築することを目標にした。その際に現実と経験という二つの概念からアプローチした。(1)「現実」に関しては、ショーペンハウアーからディルタイに至る意志概念の変遷を、作用概念を基軸にして跡付けることによって、ディルタイにおける現実性概念の形成を解明した。(2)「経験」に関しては、ディルタイが最初期から英国経験論とりわけJ.S.ミルとヒュームに関心を持ちつつ、しかし「経験論」に対して自らを「経験の哲学」として峻別している点に注目して、J.S.ミルとヒュームへの批判的受容を追跡しながら、ディルタイ独自の経験概念を解明した。その内容・成果は以下の通りである。(1)意志概念の変遷はドイツ哲学の流れの中で一つの道筋が描かれてはきたが、本アプローチの特徴と意義は、作用概念に注目した点にある。これによって本研究は、意志を実体的に捉えるのではなく、また超越論的に捉えるのでもなく、現実を形成する現実の働きとして捉える道を開いた。そして(2)のアプローチは従来の研究では未開拓であり、その意義は大きい。すなわち、ディルタイの「経験」は、従来の研究でよく誤解されたように、「人間本性」を前提したものではなく、また経験論が帰納の前提とした「自然の斉一性」に基づくものでもなく、したがって演繹でも帰納でもなく、むしろ類比(アナロジー)による経験を意味している。周知の「連関」「構造」もこの類比経験によって形成されているのである。このように、従来の研究に対する本研究の意義・成果は、ディルタイ哲学を「意志的・類比的経験としての現実形成の哲学」として解明した点にある。以上の成果は、本研究費による研究会「ディルタイ・テキスト研究会」において意見交換・相互批判・評価を継続的に行いながら、以下に掲載の雑誌論文と研究発表において公表した。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
『ディルタイ研究』日本ディルタイ協会機関誌
巻: 21号 ページ: 54-67
Von der Identitat des Willens und Leibes zur wirklich wirkenden Welt. Ein Weg von Schopenhauer zu Dilthey
巻: 60巻3号 ページ: 43-60
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~ikuoyama/lecture/DiltheyText.html