本研究は、漢訳仏典類と出土文物の両面から見た初期江南仏教の特徴と、それが道教の形成に及ぼした影響について考察することを目的とするものであるが、本年度は、具体的には次のような研究を行った。 1. 昨年度に引き続き、三国呉の康僧会訳『六度集経』の研究会を毎月1回、名古屋大学文学部で行った。中国宗教思想・中国哲学・インド仏教学・仏教美術史・日本説話文学などの諸方面の研究者で構成されているこの研究会では、『六度集経』の日本語訳を作るとともに、康僧会の訳語の検討、『六度集経』に記された本生説話の図像学的検討などを行っている。今年度は、巻6の途中まで読み進めた。 2. 3~4世紀江南仏教の文物資料に関する近年の研究論文を網羅的に検証するとともに、日本に所蔵する数件の文物資料について、実地調査を行った。 3. 六朝時代の道教経典の霊宝経に初めてあらわれ、隋唐時代以降、道教の最高神として位置づけられる元始天尊について、儒教・仏教・道教の三教の論争という視点から論じた論文「元始天尊をめぐる三教交渉」を著した。これは、中国における仏教の受容が道教の教理形成に及ぼした影響の一端を示す事例であり、本研究課題と密接な関わりがある。
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