本研究(単独研究)は、六朝時代の道教経典ならびに葬送儀礼文書と出土資料(主として墓域から出土する文字資料)を文献学的に考察することを通じて、死霊観という今に続く宗教的心性の形成過程を探りつつ、それが葬墓制の変遷にどのような影響を与えているのかを比較宗教史的に明らかにしようとするものである。これによって現代社会において墓のありようを考えるための歴史的事例を準備することを目標とする。 現在までに3点の道教経典について敦煌写本の翻刻を行ない、これを道蔵本と対校することによって校訂本文を作成し、さらにこれにもとづいた現代語訳を試みた(1年度『道要霊祇神鬼品経』、2年度『洞淵神呪経』巻一「誓魔品」、3年度『洞淵神呪経』巻九「逐鬼品」)。以上の作業を踏まえ、言語および思想の各レベルにおいて異同を検討し、六朝道教における死霊観の変遷をたどるための文献的基礎の構築を行なった。 研究の最終年度である本年度は、道蔵所収の葬送儀礼文書である『赤松子章暦』と『太上宣慈助化章』および墓域から出土した文字資料(白彬編『中国道教考古』所収)の解読を試みた。これによって、六朝時代の人々が死というものをどのように考えたかということが、葬墓制のありように反映されている事実が明らかに読み取れた。すなわち死霊観が墓という目に見える実体の背後にあると言えるわけである。以上の道教経典の文献学的検討をもとに、後漢から六朝時代に大きく変遷した葬墓制の根底にある死霊観について考察を行なった。
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