本研究は、明治前期に日中両国間を往来した人々が交わした筆談の資料や、旅行記などの基本史料を系統的に調査のうえ整理、分析を行ない、この時期の両国の人間同士の交流の実態や、日中間における文化往来の史実を考察するものである。そのため、本年度は前年度に引き続き中国の北京、上海および日本国内の京都、大阪、岡山などの図書館、博物館で関係資料を調査し、当時両国知識人の間で交わされた書簡、筆談資料や、当時の文化交流の史実が記録されている日記、新聞記事、回顧録などの資料を集め、新資料の発見を努めていた。旅行記に関しては、『日本人中国遊記』シリーズ(中国・北京:中華書局)の編集・出版に携わり、その一部の校勘・標点・注釈および翻訳に参加した。筆談資料については、大河内文書をはじめとする筆談資料の整理を行い、注釈をつけた資料集『日本所蔵清末中日文人筆談書簡資料集』を中国で出版する予定である。その他、清国公使館と関係の深い漢学者の日記などを翻刻した。中国、日本での学会発表の他、「楊守敬与羅振玉的交友-読楊守敬致羅振玉書札」(張哲俊編『厳紹〓学術研究』、北京大学出版社)、「被人遺忘的日本人八戸弘光-十九世紀六〇年代中日民間往来的一例」(『国〓漢学研究通訊』第2号、北京大学出版社)、「関於清駐日公使館借鈔日本足利学校蔵《論語義疏》古鈔本的交渉」(『版本目録学刊』第2輯、国家図書館出版社)などの論文を発表した。なお、本研究の研究成果の一部を含め、近年発表した近代日中文化交流に関する論文のうち、特に人物の往来、古典籍の流転といった内容と関係のあるものを選択して、『人物往来与書籍流転-近代中日文化交渉叢考』という題目の論文集を、中国北京の中華書局から出版することが決定しており、すでに第一回の校正刷りが出ている段階である。
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