インド諭理学派(ニヤーヤ)の学体系をまとめた現存最古の綱要書『ニヤーヤ・カリカー』(NK)の世界最初の批判校訂テキストを作成し、かつ著者ジヤヤンタの主著『ニヤーヤ・マンジャリー』(NM)との比較検討を行ないつつ翻訳・解説を施して、ジャヤンタが描出するニヤーヤ哲学の概観を提示することが本研究の作業目的である。その目的遂行のために本年度は、NK写本1本撮影と情報収集・意見交換等を目的としたインド出張(デリー、プネー)を行った。そして3年間の研究成果のまとめとして、蒐集したNK写本および版本の照合を踏まえた、NKの校訂テキスト作成および翻訳作業の完成に向け作業を行った。その成果を含めて、NKがシャヤンタの真作か否かの真贋問題を軸として、既発表の論文ならびに平成21年度の2回の国際学会での口頭発表を踏まえ、さらには新たにNMとのシャブダ論等の詳細な比較分析を加えて、その研究成果を、学位請求論文(平成23年4月1日に東京大学に提出した)の主要部分(第3章第1節および第4章第1-2節)として組み入れた。これによって、シャブダ論を始めとしてartha概念、定説概念などの内容に関してNKとNMの間には顕著な対応が認められるげかりでなく、それらの多くはニヤーヤ学史において古風な解釈として後代には後退していくことが明らかとなり、その意味でもNKは古いニヤーヤ学の諸相をよく保存したジャヤンタのニヤーヤ学観を手短に知る貴重なテキストであることが明確となった。
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