平成20年度の北インドから南インドへかけて主要佛教遺跡の全般的調査の段階では調査するだけで、写真撮影することが許可されなかった新発見のカンガンハリ佛塔について、平成21年度は、インド考古局から新たに入手することができた写真撮影許可証にもとづいて再調査し、ほぼ完全に写真撮影することができた。佛塔の本体部分にトレンチが掘られたままであり、佛塔周辺の右遶道の立体構造も発掘されたままに露出し、しかも佛塔表面に貼りつけてあった60数枚のジャータカ・佛伝図石彫板が、可能な限り復元されて地表に並べられている状態で写真撮影することができたのであるから、きわめて貴重な記録写真を確保することができたと信ずる。 今回は、新学年早々の平成21年4月4日から9日まで、世界的なインド佛教美術史家であるミュンヘン大学教授Monika Zin博士に急遽、研究協力者になっていただき、従来からの研究協力者中西麻一子及び研究代表者荒牧の三人で、写真撮影を主とする現地調査を行った。Zin博士とともに現地で現物を前に調査したことによって、新発見のカンガンハリ佛塔が、まさしくアジャンタ前期窟とアマラヴァティー前期佛塔(これは実在しないが、後期佛塔から推定される)をつなぐmissing lingであることを確認することができた。また、Zin博士から、平成12年に発掘されたばかりの段階の写真資料を提供していただいたことによって、今回、撮影した写真と対比させながら、カンガンハリ佛塔の本来の原初形状を復元することが可能になった。かくしてカンガンハリ佛塔という大乗佛教起源及び佛像出現の直前段階の実物資料にもとづいて、本研究の目的である大乗佛教起源と佛像出現が同一の宗教体験にもとづくことを論証する道が開かれたのであった。
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