具体的内容:本年度は研究全体の最終年度であり、ジャイナ教宇宙論史において中期に属する文献を研究した。また当該作品が宇宙論史においてどのような意味を持っているのかを比較検討した。具体的には12世紀の白衣派学僧ヘーマチャンドラによる『ヨーガ・シャーストラ』における宇宙論の部分を読解分析した。 意義と重要性:研究の結果、当該書は古代の聖典における記述とは若干異なり、後期の作品に近い宇宙論を示していることが明らかとなった。つまり、白衣派の聖典をそのまま継承しているのではなく、他の文献から何らかの影響を受けた宇宙論を展開している。一方で、後期作品とは殆ど類似しているので、この時点でいわゆるジャイナ教の宇宙論が形成されたことが推測される。またこの研究の過程で、ジャイナ教に特有の「世界人間」(lokapuru□a)の概念がウマースヴァーティの倫理学書に初めて現れることが確認された。この事実は現在まで報告されておらず、本研究の重要な成果の一つである。また図像学的には、「世界人間」の首と顔に当たる部分に各々、細部の区分が記述され、九つの首飾りおよび五つの開口部(二眼、二鼻孔、口)と対応していることも明らかとなった。 更に宇宙全体の長さを計量する単位は、ヘーマチャンドラではラッジュ(rajju)であるが、この単位は聖典では用いられず、彼以前の作者によって導入されたものである。しかし、ヘーマチャンドラ以降では更に小さな単位カンドゥカ(kha□□uka)が導入される。このような歴史的変遷も本研究によって明らかになった。
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