共同作業に基づく社会学年報学派の宗教研究の全体像を明らかにし、その宗教学史的意義の再検討を目的とする本研究において、本年度は、これまでの研究成果を踏まえつつ、インド学者シルヴァン=レヴィとの関連で、ユベール・モース「供犠の本質と機能に関する試論」(以下、「供犠論」)の生成過程を考察した。その作業の一貫として、9月初旬の1週間、IMEC所蔵のFonds Maussの調査に赴き、シルヴァン=レヴィがモースに宛てた書簡、並びにユベールのモース宛書簡の精査を試みた。 終生モースと密接な関係にあった両者のうち、シルヴァン=レヴィは「供犠論」の執筆時期にはアジア旅行に出かけていて、この間、直接的な助言等は見られなかったこと、一方のユベールとは頻繁に手紙のやり取りをしていて、「供犠論」の細部に至るまで、緊密な共同作業に基づいていたことが明らかになった。その共同作業の錯綜したプロセスについては目下解明中である。 他方、当時の社会学年報学派による宗教研究の背景を探る作業も継続中であり、とくに学派のトーテミズム理解の変遷過程の解明、ならびに学派に近かった哲学者、レヴィ・ブリュルの「原始心性」説の位置づけを試みた。その成果の一端は、『宗教学事典』(丸善)における「原始心性」、「トーテミズム」の項目で、簡単に述べている。 また、社会学年報学派の仕事が、日本の宗教研究に与えた影響の探査を開始した。具体的には『宗教生活の基本形態』の訳者である古野清人、パリに長期間留学してモースに直接師事した松平斉光や山田吉彦らの、とりわけ戦中から戦後間もなくにかけての著作の読解を通じて、彼らの宗教研究の視角を分析・検討した。
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