平成20年度は、平成21年2月に18日間、ケーララ州中部のトリチュール市を拠点とし調査を行った。本課題は、(1)ケーララ州のブラーマン宗家(=マナ)が所蔵するヴェーダ写本の画像収集とその内容調査、(2)マナに属するブラーマンの「現代インド人」としての生活実態に関する調査、および(3)ケーララ州とその近隣州に散在する他のブラーマン家系の現状に関する情報収集、という三つの調査項目を含む。これらのうち、本年度は主に(1)と(2)にあたる調査を集中的に行った。 まず項目(1)については、イリンジャラクダ市のネドゥムピリ家が所蔵するサンスクリット語ヴェーダ関連写本4点と、マラヤーラム語による非ヴェーダ系写本2点の撮影を行った。非ヴェーダ系写本2点のうち、一つはかつてトラヴァンコール藩王家と深い結びつきのあった同家に伝わるヒンドゥー王権儀礼(バドラディーパ・ヤーガ)の儀軌であり、もう一つは近世において同家で作成された種々の文書を集めたものである。これらは、ブラーマンの人々が単にヴェーダ伝承者としてだけでなく、王権や地域民衆とも深くかかわる存在として、社会的なプレゼンスを持ってきたことを窺う貴重な資料と言える。 また項目(2)については、現代インド人としてのネドゥムピリ家の生活実態を調査した。所属メンバー間の関係や各人の生活に関する聞き取り調査に加え、彼らが「タントリン」と呼ばれるヒンドゥー寺院の司祭でもある点に着目し、その活動を取材した。特に今回は、エルナクラム地区の寺院建立祭(ナヴィーカラナ)への出仕に立ち会い、その儀礼の様子を取材することが出来た。建立祭以後にはヒンドゥー教徒以外の寺院立入りが禁じられているため、今回の取材で得た情報は、寺院におけるブラーマン司祭の所作・役割の一端を窺わせる貴重な資料と位置づけられる。
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