平成22年2月24日から3月10までケーララ州に滞在し、下記の調査活動を行った。 1.「ブラーマン諸家系での訪問インタビュー調査」:前回、重点的な調査対象としたネドゥンピリ家の家主をガイドとし、同じヴァードゥーラ派の十五家系を訪問した。とくに各家系間の血統的および法統的関係、ブラーマン社会における位置づけ・役割、および所蔵写本の有無(所蔵有りの場合はその内容)等を中心に調査した。2.「ブラーマン宗家でのヴェーダ祭式ビデオ撮影」:3月1日(満月日)の早朝、バウダーヤナ派宗家であるカイムック家にて行われた「満月祭」をビデオ撮影した。さらに、バウダーヤナ派内でのヴェーダ祭式の現存状況、および近年における古代祭式復興のムーヴメントについて、インタビュー調査を行った。3.「ヴェーダ祭式文献古写本の写真撮影」:ネドゥンピリ家が蔵する写本群のうち重要かつ未撮影のものを選び、画像にして約400ショット撮影した。今回は、近現代のブラーマンたちがヴェーダ祭式の執行に際し直接依拠している「チャダンガ文献」を集中的に撮影した。 上記のうち「1」の活動では、前回の調査で主にネドゥンピリ一家から得た情報を、多数の家系から得た情報と突き合わせ、複眼的な「クロスチェック」を行った。その過程で、未確認写本群、過去に断絶した有力家系、ケーララ州以外の地域における関係家系などについて、学界未知の重要な情報を得ることが出来た。「2」の活動は、前回調査で撮影した「新月祭」の映像を補完し、ヴェーダ家系における主要祭式である「新満月祭」の具体像を明らかにする目的で行った。同祭式の挙行を記録したビデオ資料は知られていないため、今回の成果が学界初のものである可能性が高い。「3」の活動では、サンスクリット語による古代文献の陰に隠れ、これまで着目されることのなかった「チャダンガ文献」の基礎資料を組成するための重要資料を確保した。
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