平成23年3月7日から3月12日までケーララ州に滞在し、下記三種の調査活動を行った。 1. 「ブラーマン宗家とヒンドゥー寺院の関係に関する調査」:これまでも主な調査対象としてきたネドゥンピリ家(イリンニャーラクダ市)が、ヒンドゥー寺院とどう関わっているかを調査した。特に、同家が所有する十六寺院のうち、イリンニャーラクダ近辺にある六つを訪問し、各寺院の所有者(ウーラーラン)と主席司祭(タントリ)の構成を調査した。また、近代における寺院運営形態の変遷史について、寺院関係者から聞き取り調査を行った。 2. 「ペルヴァナン村所属ブラーマン家系の訪問調査」:これまでの主な調査地であったイリンニャーラクダ市に隣接するペルヴァナン(ペルマナンとも呼ばれる)村は、前者と並ぶヤジュルヴェーダ伝承の中心地である。今回はその村で指導的立場にあるムーライル・ペドゥンパダップ家を訪問し、同村所属のブラーマン家系の現状を聞き取るとともに、現在の各家系構成員を詳しく記した非公刊印刷物も入手した。これにより、他のヴェーダ伝承地と比較した同村の特色を把握し、今後調査を進める足掛かりを得た。 3. 「マントラヴァーディン家系の調査」:ケーララ州のブラーマン社会において、注目すべき役割を果たす家系の種類に「マントラヴァーディン」がある。ケーララには六つのマントラヴァーディン家系があるが、その一つであるカーヴァナート・アーマルール家を訪問し、現代におけるマントラヴァーディンの活動、地域社会での役割等について聞き取り調査を行った。 これらのうち、「1」と「2」の調査は、過去2年度に主な調査対象としてきたヴァードゥーラ派宗家・ネドゥンピリ家の特徴や、周辺のブラーマン社会における位置を確認するために有意義であった。また「3」の調査を通じては、従来学界において未詳であったケーララ・ブラーマン社会の重層性を具体的に把握するための重要な知見が得られた。
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