関東地方には、親鸞に関わる伝説が数多く存在する。これらは、主としていわゆる二十四輩寺院と関わりながら名号などの遺物の由来として伝えられていることが多い。たとえば、無量寿寺における産女済度伝説-産褥で死んで産女の亡霊となった村田刑部の妻を済度する話はことに著名である。 昨年度の調査では、関東二十四輩寺院の内、茨城県水戸・報仏寺、茨城県常陸太田・西光寺、茨城県結城・弘徳寺、西念寺、茨城県下富田・無量寿寺、埼玉県古河市・光了寺、新潟県高田浄興寺、長楽寺などを訪問・調査し、おもに親鸞にかかわる絵伝や縁起を拝観した。その結果、それらは中央(本山)の主唱する親鸞伝記を主軸としながらも、その構成に在地特有の親鸞伝説をとり込んでいる様を確認することができた。いわば、親鸞伝記唱導における伝承の増殖の有り様を見たわけである。 また一方では、二十四輩信仰の地方への波及・定着のさまを確認するために四国・香川県地方における「ミニ二十四輩巡礼」の調査を行った。そのひとつである高松市・庵礼二十四輩巡礼では、村田刑部の産女済度伝承を持つ無量寿寺に当てた石仏が、地元の人によって妖怪の出現など怪異の起こると怖れられた墓地の前におかれていることを確認した。関東の親鸞伝説がどのように地方に移植されるかをあらわす興味深い事例として注目される。 四国地方には、ほかにも数多くの二十四輩ミニ巡礼地の存在が確認でき、今後の調査によってさらなる知見の拡大をはかり、もって二十四輩信仰の地方への浸透と定着のさまを明らかにする必要がある。
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