平成23年度は、以下の諸点に一定の成果を見た。 (1)関東の二十四輩寺院やその他の地域に伝わる親鸞絵伝を比較検討する中で、絵伝を成立させた背景として、宗派を問わない実態とそれに基づく絵入り出版などのメディアが布教活動に与えた影響を考察し、親鸞絵伝の近世的な位相を浮かび上がらせた。 (2)親鸞が得度した天台宗青蓮院門跡には、植髪堂と呼ばれる御堂があり、ここに親鸞聖人得度時に剃髪した髪を植えられた親鸞の木像が安置されている。この阿弥陀堂及び植髪尊像は、享和三年(一八〇三)刊行の『二十四輩巡拝図会』山城之部などにも記されるなど、親鸞の旧跡巡礼の地として知られている。植髪尊像にはこれまで大谷大学の神田家文庫に所蔵される略縁起が知られていたが、今回新たに個人所蔵の略縁起を発見し、両者の比較研究をおこなうことで、近世の異なる時期にそれぞれの時代思潮に沿って、この縁起の受容のされ方が異なることを明らかにした。 (3)江戸の戯作者十返舎一九が著した合巻『金草鞋』十六編「二十四輩御旧跡巡拝」(文政六年・1823年刊)について考えた。二十四輩関係の出版は多くは上方にかかるものであるが、江戸においてもこの種の出版は行われた。その一つがこの『金草鞋』である。詳細な検討をした結果、寺院や二十四輩僧侶名に初歩的な間違いが多くあり、しかも再版に際しても改められないままにあったことが判明した。これは戯作に取り込まれる「二十四輩巡礼」という点で興味深い問題を提起している。 (4)四国瀬戸内沿岸の二十四輩ミニ巡礼地の遺跡探索を続行し、本年度は新たに5ヶ所を発見し、フィールド調査を行った。内、宇多津町一件につき祭祀を実見し、管理者に聞き取り調査を行ない信仰実態を明らかにした。また丸亀嶋田寺境内分についても聞き取りを行った。現在31か所を確認した。
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