平成21年度は、まず詩編第14編第二講話を取り上げて、その読解を行った。この講話は高利貸しを反駁し、安易に借財をつくる者どもを戒める内容になっている。弟のニュッサのグレゴリオスの同様の講話が高利貸しのために窮乏する農夫を対象とし、むしろ高利貸しに絞った批判を展開するのに対して、バシレイオスは借財をつくる者への戒めを含む点で異なる。ただしこの講話の最後では、フィランスロピアの視点からの議論が展開しており、フィランスロピアとミサンスロピアの対比で議論が展開するあたりは、グレゴリオスと同様である。むしろグレゴリオスがこれを取り上げて徹底したと言えるであろう。 なおこの講話と平成20年に研究した「旱魃と飢饉のときに語られた講話」「『私はわが倉を壊した』についての講話」をあわせて「バシレイオスの救貧思想」の題で研究発表を行う予定であったが、口頭発表の段階では(キリスト教史学会学術大会)、十分な比較検討ができず、「旱魃と飢饉のときに語られた講話」のみに絞ったものとなった。しかしこの発表は編集委員会から学会誌に寄稿するよう求められたため、三つの講話を合わせて考察した論文を執筆し、寄稿した。 また「旱魃と飢饉のときに語られた講話」については、その翻訳を作成し、『神学研究』において発表した。 さらに先年研究したバシレイオスによる救護施設「バシレイアス」については、フィランスロピア論の視点を含め、現代的問題を射程に入れて論文「忘却されし者へ眼差しを-バイオエシックス・人間愛・キリスト教」を執筆した。 なお予定していたナジアンゾスのグレゴリオスの救貧思想と実践の研究についてはまだ成果をまとめるには至っていない。現在、フランス国立図書館に所蔵されているナジアンゾスのグレゴリオスの講話を収めた写本(Gr.510)に付けられた挿絵の一枚に、病者の世話をするバシレイオスとグレゴリオスの図が描かれており、この図における世話の様子、建物などの考察を行っている。またグレゴリオスの救貧説教の講読も進行中である。これらの成果は、平成22年度に公にしたい。
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