2010年度はナジアンゾスのグレゴリオスについて、主に第十四講話を研究対象とし、そこで語られる救貧思想を明らかにした。372年頃になされたこの講話では、おそらくはバシレイオスの病院建設を支援するためになされたもので、主にレプラの病貧者の救済が訴えられる。グレゴリオスはその社会的抑圧の様子を実に詳細に語るなどとても力を込めて語る。 研究の結果、彼の救貧思想についてフィランスロピア概念をもとにいわば縦軸と横軸の交差するところで成立していることを明らかにした。この講話は思想書ではなく、まさに講話としてグレゴリオスは様々に言葉を尽くして救貧を訴える。そのため断片的な思想も多々混ぜられており、そうした多様性が魅力でもあろう。それでも彼の救貧思想は根本に一つの思想が横たわっている。それを明らかにしてくれるのが、彼のフィランスロピア概念である。この概念を検討した結果、縦横二つの軸の交差として捉えることで解明できることを見出した。横軸とは、レプラの病貧者であっても同じ人間として平等であるという関係を指す。ここでグレゴリオスはこの病貧者の姿を描くことで同じ人間として聴く者の感情を掻き立ててもいる。また縦軸とは、受肉と神化(テオーシス)の双方向を意味する神と人間の関係である。神が人間になることでわれわれも神に成る可能性がひらかれる。その現実化が救貧の実践なのである。その際キリスト=病貧者という等式(この場合は神に向かうこと)と、救貧によって援助者=キリスト(神に成ること)という等式の二つが重なってくる。神に向かい、神に成ることである。こうして受肉と神化という縦軸、同じ人間同士という横軸の交差するところでグレゴリオスの救貧思想は成立しているのである。 なお成果は日本宗教学会第69回学術大会(東洋大学)において発表し、その後これを論文化し、『関西学院大学キリスト教と文化研究』に投稿し公刊されている。
|