本研究が主たる課題としたのは、(1)「天領」(代官支配地域)に関わる出版物・文献・史料の把握をめぐる基礎的調査であり、(2)研究成果の公表である。 史料の所在確認とその閲覧、さらには今後の調査の可能性の確認を目的として赴いた主な場所は、小諸市(代官所所在地)を中心とした長野県中部地域、上越地域(上越市直江津)、中越地域(小千谷市)である。当該地点での調査を通じて、「天領」における学問・思想形成の基礎をなす諸種「書物」の入手と享受の実態への検証の道筋を展望することが可能となった。あわせて、代官所とその周辺に住む広義の「学問者(文化人)」の「知」の多面的な構造を思想史的に考察する際の視点を「出版」行為に即して獲得することができた。 その出版分野のうちで本研究が重視したのは「狂歌」である。というのも、狂歌(特に19世紀の狂歌)は、江戸との繋がりを有する地域の知識人がこぞって制作したものであり、日・中の古典さらには地域的な景物、日常的の些事に至るテーマを幅広くかつ「典拠」をもとに詠んだ。その際の典拠となったのが江戸を中心に生産された「書物」であり、狂歌は書物に支えられ詠まれた。さらには浮世絵などの出版物も参照に供された。 代官所所在地に代表される地方の拠点地域にあっては、上記の多様な出版物を幅広く利用する文化人が存在したことが諸種の資料から裏付けられた。 こうした本課題の研究成果の一部は、出版をテーマとした「書物出版と社会変容」研究会において報告を行い、『伊南村史』通史編には本研究の成果が掲載された。また、上越地域における調査については新潟日報・上越タイムス等で報道された。
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