本年度は、本科学研究費により横浜国立大学経営学部サテライト教室にて、研究集会:小泉仰「J.S.ミルとキリスト教」(2009年7月18日)と、横浜国際ワークショップ「『自由論』(1859)はどこまで普遍的か?」(同年9月3日-4日)を開催した。後者では、英・米・中・韓の研究者を招聘しミルの政治思想の諸概念と、そのアジア各国での翻訳について多面的な検討を行った。また、研究代表者泉谷と協力者有江が、ベンサム法思想についてアジアを代表する研究者であるC.L.テン教授の招聘で、シンガポール大学人文・社会科学部哲学科を訪問し(同年9月13日-16日)、そこで、功利主義思想のアジアへの波及についてテン教授と意見交換をするとともに、同学科スタッフ・セミナーにて有江が、功利主義の基本概念の明治初期における翻訳問題について報告を行った(同年9月15日)。同学科に所属する欧米研究者や中国人研究者、多国籍の博士課程院生らと興味深い討論をすることができた。同じく、有江が訪問したユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、ベンサム研究所のBentham Study Group Seminarにてミルの翻訳問題についてLost in Translation?と題する報告を行った(同年11月17日)。 研究代表者泉谷は、第2年度の研究の一環として「イギリス・ロマン主義とJ.S.ミル」と題する報告を行うとともに(「ミル研究会」慶應義塾大学三田校舎:6月13日)、待望久しいG・E・ムーア『倫理学原理』の新訳を共同で上梓した(三和書籍、2010年3月)。これらは第3年度のミル研究の総括に向けての階梯といえる。また、本科学研究費による研究を中核とした共同論文集の出版企画も、同時に進行させている。
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