私のプロジェクトは、ハンガリーの思想家ルカーチと日本人たちの往復書簡を分析し、その背景と同時代的関連を調べ、日本でのルカーチ受容やその思想史的・文化史的意義を明らかにしようという試みである。第一年目の昨年度は、往復書簡のテキストそのものを入手し、読み進めながら翻訳することを主な課題とし、少しではあるが、註釈をつけることにも取りかかった。 書簡の分析には三つの面があり、(1)ルカーチ自身の人と思想の全体、とくにそれぞれの書簡の時点でどんな状態にあるかを知る、(2)書簡の相手の日本人の調査を行う、(3)これらを前提にそれぞれの書簡が何を問題にしているかを明確にする、ということである。昨年に引き続き、分かるところかち手当たり次第に調べるというスタイルだが、読書、手紙・電話での問合せ、国内外の文献コピーの取寄せ、図書館での調査などを通じて、註を蓄積していくこと、また書簡の大半が翻訳に関わっていることに基づき、ルカーチ翻訳史と取り組むことに今年度の重点を置いた。 昨年度末に思い立って発刊した「ルカーチ研究通信」は反応があって、目指す双方向性にもとっかかりが出来たように思う。今年度は第2号と第3号を出すことができ、第2号には「ルカーチ邦訳リスト」(20ページ)を別冊として付けたが、これは往復書簡の註のためだけでなく、ルカーチ受容史全体の基礎資料でもある。 なもお前回科研費プロジェクトの産物である「国際ルカーチビブリオグラフィ」をドイツで出版したいという提案があり、現在のプロジェクトに堅固な基礎を置く仕事でもあるので、出版のためにその増補・改訂とも合わせ取り組んでいる。
|