第一年度は、研究課題として掲げた項目のうち、マハートマ・ガンディーの不可触民制度およびカースト制度に関する言説を、ビムラオ・アンベードカルによる批判と対比的に分析する作業を進めてきた。ガンディーが、カースト制度を維持しつつ不可触民制度を撤廃しようとする際に、カースト・ヒンドゥーによる改心に期待するところが大きいが、基本的に人間の性悪説に立つアンベードカルは、ヒンドゥー社会を根底的に規定しているカースト制度を撤廃することなくして、不可触民は解放されないとガンディーを批判する。ガンディーがカースト制度を支持する根拠の一つは、職業の世襲制による競争原理の排除にあるが、職業が多様化し、高度化した近代インド社会にあってそうした考えは支持されにくい。 文献を鋭意揃えるべく努力しているが、その分析は、若干遅れ気味である。平成21年度は、学内の委員会の業務も軽減されるために、その遅れを早期に取り戻したいと考える。とりわけ、不可触民による反乱の歴史と、ガンディー指導の不可触民制度撤廃運動の経緯を整理する作業は、第二年度の研究課題と平行しながらいっそう進めてゆかねばならない。 とはいえ、インド・ジャイプールで「非暴力の経済学」を標榜する研究機関IILMでの講演、環境・平和研究会(於:立教大学)での研究報告、京都大学東南アジア研究所における国際ワークショップでの研究報告など、国内外でガンディー思想に関する研究成果を発表する複数の機会を得た。その内容は、論文としてModern Asian Studiesに投稿中である。
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