本年度は、単著『江戸の批判的系譜学-ナショナリズムの思想史』を4月にぺりかん社より刊行した。ナショナリズムを江戸期の自国意識にまでさかのぼって考察したもので、現在の本研究を支える、土台となる成果である。 また、国内外の戦争の記憶に関する様々な施設や記念碑の継続的な調査を行った。 国内では、中国人強制連行問題に関わって、花岡及び東京での慰霊祭に参加し、花岡では現地でのフィールドワークも行った。 また国外では、中国での戦争の記憶の問題として、北京の抗日記念館を二度訪ねた。二度目には、館員に展示内容から、施設の趣旨や運営に関してまで広くインタビューを行うことができた。また天津では、日中共同で設立した中国人強制連行記念館を訪問し、また、引き取り手のない遺骨とも対面した。西安では西安事件の記憶を、また山東省済南市では済南事件の記憶のあとを訪ねた。 従来的な思想史研究としては、戦後のアジアとの関わりを論じた主要な論文に目を通していった。様々な発言の厚みの中で、戦後思想を捉えてみたいが、戦争記念館での記憶と、知識人との発言の交点をどのように探るのか等、課題は多くいまだ模索中である。
|